こだわり続けるという信念から本格派時代劇が生まれた
「新しいことは何もしていない。先人の映画作りを見習って、こだわり続けただけ」とは撮影を終えた時に錦織良成監督が発した言葉である。本作の舞台裏を覗くと、その言葉を裏付けるこだわりが節々に窺える。
スタッフ&キャスト布陣へのこだわり
美術監督の池谷仙克、撮影の佐光朗、照明の吉角荘介など手練れのスタッフや、津川雅彦、
奈良岡朋子、山本圭、高橋長英、笹野高史、品川徹といった日本映画の原点を知る名優たち、宮崎美子、甲本雅裕、豊原功補、でんでんなどの、いぶし銀のバイプレーヤー勢が脇を固め、それらのベテラン俳優陣を相手に一歩も引けを取らず主演の青柳翔やAKIRA、小林直己らといった若い俳優たちが存在感あるスクリーン映えする演技で大暴れしているのだ。映画ファンならずとも見ごたえ十分だ。
本格的な村のオープンセットや北国船へのこだわり
また、出雲大社の遷宮も携わる地元の宮大工、材木問屋や建設会社などの協力を得て、近代までたたら操業を行っていた島根県奥出雲地方に本格的な村のオープンセットを建設した。
作り物の領域を超えたクオリティーで中世の「たたら村」を見事に復元させ、さらには伍介が北国船で旅をするシーンには、実物大に復元された木造船を実際に海に浮かべて空撮するなど、臨場感あふれるシーンを次々と生み出した。
フィルム撮影へのこだわり
また、日本映画作品では少なくなったフィルム撮影にこだわり、近年再びハリウッド大作で使用されることも多くなっているPanavisionカメラを米国から空輸、スキャニングから仕上げまでを4Kで行い、フィルムの持つパフォーマンスを最大限に生かしたのである。
先端のデジタル技術と昔から変わらない最高のアナログ技術との融合にこだわり、映画の根幹となる高い映像表現に成功している。
本物の「たたら吹き」へのこだわり
千年、錆びない日本刀を生み出す玉鋼を造るという秘伝の製鉄技術「たたら吹き」。物語の主人公の伍介は、古代の製鉄技法「たたら吹き」を司る村下(むらげ)の後継者という設定で描かれる。
この「たたら吹き」は、1300年以上前から日本に伝わる伝統技法で、現代の世においても、唯一奥出雲で毎年1月下旬から2月上旬にかけ日本美術刀剣保存協会によって操業が続けられている。
「たたら吹き」によって生まれる玉鋼(たまはがね)は、純鉄として最高レベルのもので現在の最先端の技術を持ってしても、この精度の鉄を作り出すことは難しいと言われている。繊細かつしなやかであることから世界で高い評価を受ける日本刀は、玉鋼が無ければ造ることはできないというのである。
本作の撮影にあたり、日本美術刀剣保存協会、日立金属の全面協力のもと、オープンセット内に再現された高殿(たかどの)で、現代の村下、木原氏の監修のもと実際に地下構造までを造り、中世の「たたら吹き」を再現しての撮影を実現させ、たたら炉に燃えるリアルな炎の色や動きをフィルムに収めている。ここにも本物を求めこだわっている。